不機嫌な君
・・・でも誰一人、その事に反論する者はいない。
反論できる筈はなかった。

…だって、金崎右近は、この会社の御曹司だから。
いくらそれを鼻にかけていなくても、『クビ』なんて一言言えば、簡単にクビに出来る立場のだから。

・・・でも、傍で聞いていた私はそろそろ限界が来ていた。
あそこに立って怒られている先輩は成績優秀で、ミスだって今まで聞いた事がない。

勤務態度も真面目で、一目置かれてる立場なのだから。

…堪忍袋の緒が切れた私は、スクッと椅子から立ち上がった。

「・・・ひとみちゃん?」
突然の私の行動に、葉月さんが私の名を呼ぶ。

「…キレました」
「・・・え?・・・あ、ひとみちゃん!」

止めようとした葉月さんの手をスッとかわし、私はズカズカと金崎部長の前へ。
・・・先輩も、金崎部長も、こちらに視線を向けた。

「金崎部長」
「・・・なんだ?」

「パワハラです!」
「・・・何?」
私の言葉に、怪訝な顔をした金崎部長。
先輩は、私を止めようと、首を振ってみせる。

・・・でも、あまりにも頭に来ていた私は止まる事は出来なかった。
後自分の立場が、どんなに悪くなるのかなんて、これっぽっちも考えていなかった。

「ミスはあってはいけない事です。怒るのは当然の事だと思います。
ですが、物は言い様ですよね?『バカ』なんて、絶対に人に使うべき言葉じゃありません!
謝ってください」

「島谷さん、もういいから、僕のミスなんだから怒られるのは当然の事だし」
そう言って宥める先輩。

「矢野さんも矢野さんです!なんでぺこぺこ頭下げてるんですか?
この人失礼だと思います!」

気が立っている私を先輩は必死に宥める。

「悪かった・・・・これでいいか?」
「「・・・・え」」

全く持って誠意の感じられない謝罪。
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