花の下に死す

二、白河院の呪縛

***


 「鳥羽院お気に入りの藤原得子さまが、ご懐妊なされた」


 翌年の秋、京の都は得子の懐妊の噂で持ちきりだった。


 「これまでにも得子さまは、御子をお二人お産みになられたが、共に姫宮」


 「今度こそは男皇子(おとこみこ)をと、得子さまも並々ならぬ執念であろう」


 「もしも男皇子をお産みになられたら。日頃のご寵愛ぶりからして鳥羽院は、その皇子を東宮(とうぐう;皇太子)すなわち次の帝とお定めになるかもしれぬ」


 「なんと。そんなことになれば、今の帝であられる崇徳帝のお立場は……」


 すでに中宮、第一の妃である待賢門院藤原璋子は鳥羽院から避けられ、別居生活を強いられて久しい。


 璋子の第一皇子である崇徳天皇も同様に、父である鳥羽院に疎まれ、朝廷内では孤立した存在であると聞く。


 この状況下で、鳥羽院の側女に過ぎない得子に、皇子が生まれでもしたら……?
< 13 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop