花の下に死す

八、忍び寄る影

 保延6年(1140年)、春。


 また桜の季節が訪れた。


 程なく満開を迎え、夜桜見物でもしたい頃合だったが、その夜はあいにくの曇り空。


 今にも雨が降り出しそうな夜だった。


 「もうじき降り出すな。激しい雨になれば、せっかく咲いた花が散ってしまう」


 同僚の平清盛が、恨めしそうに暗い空を見上げる。


 「それに……。どしゃ降りの夜に、宴の警護をするのもきついな」


 この夜は藤原得子の屋敷で、得子の生んだ第八皇子・体仁が皇太子になった祝いの宴が催されていた。


 摂関家など政府首脳も、多数出席している。


 無論鳥羽院も。


 「崇徳帝や待賢門院さまは、代理の者に祝いの品を届けさせたものの欠席だ。まあお二方の場合、こんな祝いの席に顔を出したくないのも当然だろうけどな」


 (璋子さま)


 清盛が待賢門院の名を出した瞬間、義清は璋子を想い切なくなった。
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