天翔ける君

「山吹さん女の人に人気なんだね」

「オレなんかより、千鬼の方が人気だと思うんだけどなぁ」

「そうなの？」

千鬼は見れば見るほど、ぞっとするくらいの美しさがある。

動いていてさえ、作り物と錯覚するくらいだ。
確かに女が放っておかないだろう。

「でも千鬼は怖がられてるからなぁ。気軽に声をかける女はいないだろうな」

わざとなのか千鬼に聞こえるように言って、山吹は笑う。

「付きまとわれても煩わしいだけだ」

山吹を一瞥して、千鬼は呉服屋ののれんをくぐった。

――千鬼はちっとも怖くないのに。
屋敷にいる時とは少し雰囲気が違うけれど、それでも恵都は怖いのとはちょっと違うと思う。

「でも山吹さん、私は千鬼の優しいところいっぱい知ってるよ。みんなも知ってくれたらいいのにね」

千鬼に聞こえないように山吹に耳打ちすると、驚いた顔をしたあと、恵都の頭を豪快に撫でまわして嬉しそうに笑った。