天翔ける君



「オレたちといて、恵都はなにも変わらなかったか」

「そんなことないよ!」

恵都は咄嗟に千鬼の手を握る。

千鬼によって、恵都の人生は大きく変わった。

住む世界が変わったとか、そういう根本的なこともあるが、もっと別のことだ。
二人は恵都に存在意義を与えたのだ。

――だからそんな顔をしないで。
傷ついたみたいな表情を千鬼にさせたいわけじゃない。

ひんやりとした手は恵都を振り払おうとはしない。

「私、ここに来てから楽しいよ」

千鬼は食うと言いながら、丁寧に扱ってくれる。
表情やもの言いこそ冷たいが、優しいところばかり恵都は知っている。

山吹だってそうだ。
突然やって来た人間の恵都に親切にしてくれて、笑顔で受け入れてくれた。

――実の父だって、こんなに良くしてくれなかったのに。
引き取るだけ引き取って、あとは放置だった。

引き取ってもらえるだけましと言われればそれまでだが、ほんの少し思い出しただけでも悲しく辛い気持ちが鮮明に蘇る。



< 52 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop