恋するキオク

自分という存在




久しぶりに4人で囲んだ食卓は、お互いが気持ちを探るようで変な雰囲気だった。

父親は相変わらず口数が少なくて、母親と省吾の会話だけが場を作る。



「ねぇ省吾、今日はお祖父さまとはどんな話をしたの?」


「うん、大学に行くことは決めてるけど、音楽を続けたくてもオレの指はまだこんなだから…。どうすればいいかなって相談したんだ」


「お祖父さまはなんて?」


「冬休みを使ってオレも海外でこの手を治してくるといいって言ったよ。それでその時…オレは陽奈も一緒に連れて行くつもりなんだ」



…………

オレの箸が止まって

省吾と視線がぶつかり合った。



「それ、陽奈さんには伝えたの?」


「さっき病院に寄った時にね。最初は驚いたけど、海外は初めてだからって喜んでたよ」


「そう、良かったわね。やっぱり恋人を不安にさせるのは良くないし…、省吾にとっても支えになるものね。圭吾もそう思うでしょ?」


「え…、あぁ……」



オレを見て省吾が微笑む。

オレは、下を向いて食事を続けた。



団欒というほどでもない時間を終えた後、部屋に戻ろうとするオレを父親が呼び止めた。

こんなことは、滅多にあることじゃない。





父親の部屋は、教師をしてることもあって壁にはたくさんの本が埋まってる。

そして古びたメトロノーム。

音楽をしてたって話は聞いたことがなかったけど…



「そこに座りなさい」



指示された椅子に座る。

父親はオレを見ようともしないままに話を始めた。




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