恋するキオク



「ん…?曲を入れ替えたのかな」



最終章の曲は、後から別に加えられたものみたいだった。



どうしてかな。

別にそんなこと、気にするほどのことでもなかったのに

その曲が、
どうしても聴きたくて…



「そうだ、牧野さんなら持ってるかもしれないよね」



私は急いで鞄にCDを片付けると、勢い良く音楽室の扉を開けて飛び出した。



傾いた日差し。

遠くからの音が響く廊下。





ドンっ!



「きゃっ…」


「っつー…、ごめ…ん…」




ぐるっと頭の中に何かが回るような感覚と、ふわっと鼻をくすぐる懐かしい香り。



なんか…

前にもこんなこと、あったっけ…




「ごめんねっ!あの…」


「…………」


「…大丈夫?……米倉くん」





思わず、名前が出た。

瞬間的に、そう思った。



それに、
知ってるんだ、この瞳…。

だって、あの病院の庭にいたもんね。



そして……

そして……



ドクン、ドクン



今まで思っていたこと全てが、いろんな想像が

すごいスピードでつながっていきそうな気がして、怖くて思わず思考を止めた。



確かなことと、そうじゃないことがまだまとまらなくて…。

心の準備が、追いつかなくて。



「あ…、今ね、私たちのクラスが発表した劇の曲を聴いてたの。これ…米倉くんが作ったって……」



普通を装う無理な声。

そして鞄から出したCDケース。

見上げる表情は、ずっと動かない。



「弾いてるのも…米倉くんだよね」



じっと見下ろされると、変にドキドキしてくるような感じ。

そしてこの胸に響く音が、何かをよみがえらせるように愛おしくて。



「最後の曲が変わってるんだけど、これ聴けないのかな。あ、良かったら…弾いてもらえないのかな」



こんなにいろいろ聞いちゃって、しかも弾けってずうずうしい。

でもなんだか…

隣で聴ける時を待ってた気がした。



「あの……」


「……ーっ」



ため息…つかれちゃった?



前髪の隙間から見える瞳。

その目を、
ずっと見ていたくなる。


かすめる吐息と、光るピアス。

風に揺れる髪も。


私は…




「ごめん…オレもう弾けないから」


「えっ……?」



そう言って逸らされた視線に、胸が締め付けられた。




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