恋するキオク

変わる距離





「野崎さ〜ん、はいこれ。野崎さんの分の台本ね」



週の始めにある生活科の時間。

イベントの出し物に決まった劇の台本が、担当別に一人一人に配られた。


今週からは
放課後の準備も始まって。

あの時話していた通り、私と省吾はなかなか一緒にいる時間を作れないでいた。



「ありがとう。あ、ねぇ。この劇ってどんなお話?」


「え〜!野崎さん知らないの?結構有名な話しなのに。簡単に言うと駆け落ちの話だよ、カケオチ!」


「か…カケオチ」



部活も週の半分くらいに減らされて、私が出ていても省吾は生徒会で顔を出さないことがほとんどで。

でもなんとなくそれが、私の気持ちを楽にさせていることも事実だった。



「駆け落ちって…。なんだか高校生らしくないネタだね……」


「そう?今さらロミオとジュリエットってのも古くない?」



会えばあいさつ程度の言葉は交わすけど、あの日からの私と省吾は、どこかぎこちないままだったから。

まだ以前みたいな笑顔も見れてないし……



「野崎さんてさぁ、たしか米倉先輩と付き合ってるんだよね、生徒会長の」


「え!うん…そうだけど。何?」



ボーッとしていた私の前で、いくつかの台本を見ながら考え込んでいたクラス委員の牧野さん。

いきなりの言葉にちょっとびっくりしたけど、その後の言葉に私はもっとびっくりすることになった。



「じゃあやっぱりこっちの台本にしてもらおうかな。はい、主役」


「……な、え???」



なんで???





話を聞けば、今年は各クラスの出し物に賞がつくらしい。

それで生徒会長の省吾は、その審査員の一人らしくて。



「彼女が主役やってたら、絶対点数も甘くなるじゃん!」


「ええっ!?う、うー…ん……」



それはどうかな……
だってネタがネタだもん。



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