恋するキオク

重なる時




いよいよ創立記念のイベントまで一週間を切った。

放課後は誰もがクラスの出し物の準備に追われて、今週は部活動もまったくなくなってしまう。



そんな中で、私は自分の胸にある複雑な気持ちにずっと戸惑い続けてた。

このまま省吾だけを想って付き合っていけるのかな。

圭吾に対して感じてしまう切ない想いを、何事もなかったように消していけるのかなって。




「野崎さぁ〜ん、最初からやってみるよぉ」


「あ、うん。今行く」



圭吾の方にちらっと目をやって、私は隣にある空いた教室へと移動した。


いいなぁ、作り物の係の子たち。


相変わらずキャイキャイ言われながら作り物をこなしている圭吾は、授業にはほとんど顔を出さないけど、放課後の練習にはちゃんと出てきてくれてる。

ずいぶん馴染んだようにも見えるけど、でも今日はなんとなく元気がないみたい。

それにつられるように、外は昨日からずっと雨だし。



どうしたのかな…

ちょっとでもいいから、話せるタイミングが欲しいな…





昨日は雨の音を聞きながら、夜も眠れずに考えてた。

圭吾といると、私はドキドキしたり苦しくなったりして、いろんなことで胸がいっぱいになる。

それでも私は省吾の彼女で、圭吾は省吾の弟で。

揺れてしまいそうになる気持ちを、ダメだよ、絶対ダメだよって、ずっと抑えてきたんだ。



でも、もう全然無理なんだよ。

私は圭吾が近くにいると、つい目で追ってしまうし。

屋上にいるのかなって、いつも探してしまうし。

今日は学校に来てくれるのかな、明日もちゃんと会えるのかなって。

なんかね、圭吾のことを考えない日はないんだ。



でも圭吾にそれを言ってしまったら、きっといろんなことが壊れちゃうんだろうな。

省吾のこととか、茜さんたちのこととか。

もっと、いろいろ……



私、今なら分かる気がする。ユリアがカイに想いを告げなかった理由。

自分が告げてしまうことで、崩れていくたくさんのこと。

だから、今を大事にしたかったんだよね。

告げないままでも近くにいれるなら、そっちを選んだ方が幸せだもん。



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