氷狼ーこんな世界でもきっとー
一章ー始まりー
甘和「氷牙、おはよう!」

氷河「ああ、おはよう。甘和」

何気ない一言。何気ない挨拶。そこから始まる毎日。
俺、大神氷牙(おおかみひょうが)は幼なじみの天音甘和(あまねみわ)と
この日本という島で育った。そして俺と甘和は今年で高校1年になり
入学式から1か月が経ち生活にも慣れ始めた頃だった。ついでに言えば
俺は周りからよく恐れられている。だけど俺からすればそのほうが
都合が良かった。俺の正体がばれれば俺は死んでしまうから。

(いや、実験のモルモットにされるか。)

人間じゃない、動物じゃない、中途半端の
      
       -半狼- 

今から約500年前。地上に謎の生物が誕生した。
全身を覆う白い毛並み、鋭い牙、ケタ違いの反射能力、鼓膜を貫く雄叫び
1歩進めばそこは銀世界に変わる。その姿は氷を纏う狼ー氷狼ーそのもの
そして圧倒的強さ。当時は一万匹が生息していたと考えられる
パーコズリュコス一族。パーコズ一族、リュコス一族という愛称で言われる
俺達一族は10年前のキラ戦争を境に奴隷狩りの対象にされている。
奴隷狩りと言っても、全く使わず見つけて捕獲したら殺す。そんなものだった。
昔から仲良くやってきたはずの動物と人間の関係はあっさりと崩れていった。

〈リュコス一族が人間を殺した〉〈パーコズ一族を喰らえば力を宿すことが出来る〉

誰が言ったかもわからない根も葉もない噂。
真に受けた人間たちの誤解は解けないまま戦争。そこでは多くの者が
血を流しすぎた。人間もパーコズリュコス一族も。

(なのに、人間は・・・)

甘和「・・・牙、氷牙、氷牙ってば!!」

遠い過去に浸っていた俺は甘和の声に引き戻された。

氷河「えっ、ああ・・・悪い。で、どうした?」

甘和「・・・・」

怒ってる。マズい。非常にまずい。こいつを怒らせると大変なことになる。
一度殴られてからのずっと説教。これは何度も経験済みだが本当に辛い。

甘和「氷牙」

氷河「・・・はい。」

甘和「私、迷惑・・・?」

氷河「・・・・えっ?」

予想外のことに思わず変な声がでてしまった。まさかこいつが
こんなこと言うなんて想ってもみなかった。

甘和「だって学校に行く時間の半分ぐらいは上の空。何を言っても
   無反応。私といて楽しくないのかなって想って・・・・」

氷河「そんなこと・・・・

甘和「こんな化け物だし、迷惑・・・・だと思ったらすぐ言って?
   目の前から消えるから。」

・・・・ああ、俺は馬鹿だ。知らなかった。こんな思い詰めてるなんて。
俺にまで気を遣わせるなんて。俺が護らないといけないのに・・・・
甘和には隠し事がある。誰にもいえない秘密が。それは甘和が昔

         "人の心理を読む力"

を手に入れてしまったこと。発動条件は相手にふれたとき、
触れられたとき。それから甘和は人を信用しなくなった。
俺は例外で触れても触れられても、心理を読めないらしい。
それから甘和は自分のことを〈化け物〉と言うようになった。

甘和「ごめんね?いきなりこんなこと言って。」

氷河「いや悪いのは俺だ。すまない」

甘和「うん。あっ!!もう少しで学校着いちゃう」

氷河「誰ともしゃべるな。汚いのしかいないから。大人も、子供も」

甘和「分かってるよ~それになにかあったら助けてくれるでしょ?氷牙が」

氷河「ああ、絶対守る。約束だからな」

甘和「うん。約束」

学校は俺達の戦場。一瞬も気は抜けない。

甘和「・・・・ねえ氷牙、いつものお願い」

氷河「ん?・・・ああ、わかった」

知らなかった。

2人『願いよ届くように祈る』

何気ない一言。何気ない挨拶

2人『今日も穏やかに暮らせるように』

そんな〈何気ない〉から始まる俺達の日常が
最悪のものになってしまうなんて

2人『エイレーネ。』


知らなかったんだ_
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