Ri.Night Ⅰ 【全完結】
「右よーし。左よーし」
マンションから出た所で周囲を確認。
捜してなんてないと思うけど一応ね。会ったら嫌だし。
スーパーへ向かう途中もまるで不審者のように周囲を見回しながら歩いた。
……って、ん? この音楽……。
ルンルン気分で歩いていると、ポケットから聞こえてきたのは聞き覚えのある着信音。
ポケットに右手を入れ、鳴り続けている携帯をゴソゴソと取り出すと、画面に表示されていたのは“貴兄”という名前だった。
「もしもし、貴兄(タカニイ)!?」
『凛音?今、電話大丈夫か?』
「うん、大丈夫!」
電話の相手は、あたしの二つ上のお兄ちゃん、貴音。
『引っ越しの片付け終わったか?』
電話口から聞こえる低めの声は心地好く響いてあたしの鼓膜を優しく擽る。
「全然ー。朝からやってるけどやっと半分終わったとこだよー」
その声に聞き入りながら、ハァと深い溜め息をつくあたし。
今日何回溜め息ついたんだろう、なんて考えているあたしに、貴兄はハハッと呆れた様に苦笑を洩らした。
『明日、手伝いに行ってやろうか?』
「ホント!?手──」
──伝いに来て。と言いたいところだけど。
「やっぱり、いい!」
キッパリとお断りする。