domino
7
 彼女がいつものようにやって来るなら、もう5分もかからないでこの電車に乗ってくるはずだ。そもそも、僕が何をしたって訳でもないし、そんな事で休んだりはしないだろう。
 でも、本当に彼女は僕の顔を覚えていないのか。
 昨日、あの声を聞いた時の自信はどこに行ったのだろうかと思うほど、僕は再び混乱し始めた。
 今まで、26年間生きてきてこれと言った事もなく、ただ無難に、ただ目立たなく生きてきた。勉強にしたって、スポーツにしたって、なんにしたって僕は取り柄もなく、毎日死んでいるかのように生きてきた。
 そんな僕が警察官に追いかけられ、憧れの彼女に痴漢扱いされた。たぶん、今までの中で、変な言い方かもしれないけど、一番生きているって実感できた時だった。
 それくらい大それた事をしたのだから、この動揺は当然といえば当然なのかもしれない。
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