domino
 あの声が突然聞こえた。しかし、その内容は要領を得なかった。
 「何か話せって言われても何を話したらいい?」
 「でも、彼女の様子もおかしいし、ここは何か話さないとどうしようもないような。」
 一瞬の間に、自問自答を行った。
 「どうかしましたか。」
 少し紳士的な言い回しを決めたつもりだった。彼女もそんな僕の表情を見て安心したのか、僕をまっすぐに見つめて話しかけてきた。
 「大河内さん。」
 「はいっ。」
 彼女があまりにも勢いよく僕の名前を呼ぶので、まるで小学生の出席のように返事をしてしまった。さっきの紳士的な自分と今の小学生のような自分、そのギャップがおかしく彼女の緊張をほぐしたのだろうか、彼女の顔がいつものように戻っていった。
 「ポルノグラフィティのライブ、一緒に行きませんか?」
 あまりに意外な彼女の言葉に僕は理解できずにいた。
 「さっき、ライブのチケット取れなかったって言っていたじゃないですか。さっき、友達からメールが来て急に行けなくなったって言うんですよ。こういうのってポルノ好きな人と行った方が絶対に楽しいと思うんです。前に興味がない友達と言ったら、途中で帰ろうとか言うんですよ。ひどいって思いません?」
 彼女は自分が今、僕を誘った事を正当化したいかのように次から次へと言葉が出てきた。その言葉のせいで僕は相変わらず何も話せないままだった。まだ、彼女は次々に言い訳をしていた。一駅も話していただろうか、やっと、彼女は自分がずっと話し続けている事に気が付き一言僕に謝った。
 「すみません。私ったら、ずっと話しちゃって。」
 「これじゃ、大河内さんが返事したくても出来ませんよね。」
 そう話した後、一瞬、間を置いて、もう一度同じ質問を僕にしてきた。
 「一緒に行きませんか?」
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