domino
39
 そのまま家に帰るつもりだったのに、考え込んでいて無意識に会社に戻ってきてしまった。会社の自動ドアが開いた時、ハッと我に返り自分自身が嫌になった。
 「何をやっているんだ・・・。」
 そう思いながらもせっかくだからと、とりあえず自分の席に戻る事にした。時計を見るとまだ7時30分を少しまわった所だったが、もう社内には誰もいなかった。広いオフィスの灯りを一つだけつけ、トランスライダーの社長からもらったDVDを見ていた。
 そこには様々なスポンサーのステッカーが貼ってある車がたくさん走っていた。その中の1台の車のステッカーを指さしながら呟いた。
 「こんなのが300万か。」
 その時に僕の後ろから声が聞こえた。
 「何が300万なの?」
 後ろを振り返ると背の高い真っ黒に日焼けしたジーンズの男が立っていた。それは社長だった。ただ、単なる平社員の僕が会ったのは、面接の時くらいで顔ははっきり覚えていなかった。
 「社長?」
 思わず確認してしまった。ただ、声が小さかったせいで社長には聞こえていないようだった。
 「聞こえなかった?何が300万なの?」
 「ここのステッカーのスポンサー料が300万だそうです。」
 余計な事は言わないように、質問にだけ答えるようにした。
 「そんな金額でいいの?いいな。うちの会社も名前出したりしたら格好いいよね。」
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