domino
40
 表参道で、鈴木友里は困っていた。
 「人を待っているんです。」
 そんな事は関係ないと言った様子で男は、一方的に彼女に話しかけていた。
 「そんなのいいじゃん。もう、きっと来ないよ。それより俺とどっか行こうよ。」
 そう言って彼女の手首を掴み、どこかに連れて行こうとしていた。その手を必死に振り解こうとする彼女。そんな姿を見ても、通行人たちは単なる恋人同士の痴話喧嘩くらいにしか思っていなかった。だから、彼女が本当に困っていると思っている人は、これだけ人がいるにも関わらず誰もいなかった。
 「放してください。」
 彼女は精一杯大きな声で男に言った。しかし、男は一向にその手を放そうとしなかった。
 「そんな事言わずにさ。楽しいよ。」
 男のその風体を見ても、一緒に行っても楽しくないことは明らかだった。しかし、その瞬間、彼女の顔に笑顔が現れた。
 「あっ。」
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