domino
 もう完全に遅れも取り戻し、後はレースの開催を待つだけとなった時に僕は社長に呼び出された。そこには神妙な面持ちの社長がいた。
 「どうかしましたか?」
 いつもの社長とあまりに雰囲気が違うのに僕は戸惑っていた。もしかしたら、今回会社に迷惑をかけた事でクビになるのでは、そんな風にさえ思ったほどだ。
 「今回のプロジェクトうまくいっているみたいだね。」
 表情と会話の内容にすごくギャップがあった。そのギャップがますます僕を困惑させた。
 「入院したのに完璧に仕事を終わらせるなんて、大河内はかなり仕事が出来ると思うんだよ。」
 ここまで褒めてもらうのはうれしかったが、社長の表情は相変わらずだった。本当に何が言いたいのか要領を得ず少し苛立っていた。
 「ところで、トランスライダーの社長と何かあった?」
 急にイントネーションが変わりいつもの調子に変わった。友里さんの事は特に話す必要もないと思っていたので話していなかった。となると、ますます話が見えてこなかった。
 「特にないと思いますが。」
 僕は淡々と答えた。今度は社長の方が、話が見えてこないような顔をした。席を立ち、少し椅子の周りをうろうろし始めた。天井に目を移し、床に目を移し、何か落ち着かない様子だった。最後に大きく息を吸った後、社長の口から意外な言葉が出てきた。
 「レースが終わってから、大河内、お前を引き抜きたいと言ってきたんだよ。」
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