domino
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 相変わらず、僕の体は僕じゃなかった。スタンドから凄まじい轟音と熱気の中で、彼女の車を見守る事しか出来なかった。

 「どうすれば、僕の体の自由は僕のものになる?」

 そう考えながら必死に足掻こうとしてもどうにもならなかった。

 何台もの車がコーナーに向かって走り出した。彼女の車ももちろんその中にいた。彼女の車がコーナーに差し掛かった時、彼女の車の前を、僕がいるスタンドの前を砂煙があがった。
 何が起きているのかは音でしか知る事が出来ないくらいに大きな砂煙。
僕は彼女の身を案じた。すぐにでも彼女の元へ走り出したいのに体が自由にならない。体は自由にならないのに、心拍数が多くなっていくのはわかった。
 心拍数はさらに大きくなっていった。もう心臓が弾けるんじゃないかと思った瞬間、彼女の車がスターティンググリッドに戻って来るのが見えた。

 「彼女は無事だ。」

 そう思いながら心の中で涙ぐんでいた。
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