domino
 「大河内君、神田の家まで様子を見に行ってくれないか?」
 三上常務が僕の側で耳打ちした。なんで僕が行かなくてはいけないんだろう、そう思いながらも上司の頼みを断る訳にもいかず重い腰を上げた。
 神田のアパートが近づくにつれ、ため息の数がどんどん増えていった。
 「神田が家にいたらいたで何て話せばいいんだ?」
そんな事を思っているとすぐにアパートに着いてしまった。
 「203号室・・・は・・・。」
 アパートの部屋には部屋番号を示す標識がなく、しかたなく部屋の数を数えてドアをノックした。すると、無精ひげのやせ細った男が出てきた。神田の風体とは似ても似つかなかった。
 「すみません。ここは203号室ではないですか?」
 その言葉を聞いてあからさまに機嫌悪く隣の部屋を指さした。そう、僕は部屋を数える方向を間違えていたのだ。深々とお辞儀をすると隣の部屋に向かった。
 新聞がこれでもかと言うくらいに郵便受けに突っ込まれていた。それどころか入り口の隣にある洗濯機の上にまで新聞が置かれていた。その新聞を見て僕は、神田はいないと確信してドアをノックした。
 1回、2回、3回・・・。
 何回ノックしても神田は出てくる様子はなかった。

 結局、それから神田の姿を見る事はなかった。
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