domino
73
 僕は信じられないものを目にしていた。そこには死んだはずの和田がいた。
 「死んだはずだ・・・。ニュースでもそう言っていた・・・。」
 どんなに記憶を辿っても和田が死んだと言う記憶しか出てこなかった。生きているなんて夢にも思わない出来事だった。しかし、和田のその姿は誰も気が付いていないように思えた。よく見ると和田のスーツはひどく汚れ血のようなものまで付いていた。
 「本当に生きているのか?」
 全身の血の気が引くのがわかった。とにかく、僕はこの場にいる事が出来なくなり、とにかく控え室に戻り気分を落ち着かせる事にした。
 「はあ、はあ・・・。」
 あまりの事に呼吸がうまく出来なかった。息苦しいながらも控え室を目指した。苦しさからあまり周りをよく見ていなかったのだろう。誰かにぶつかってしまった。
 「すみません。」
 軽く会釈をして立ち去ろうとした。が、僕は恐怖でどうしたらいいのか、全くわからなくなってしまった。そこにいる僕のぶつかった人物は、僕が以前に、公園で鞄を取り返した若い連中だった。
 「なぜ、ここに?いや、こいつらも死んでいるはず・・・。」
 目の前にいるその姿は、確かにこの世のものとは思えない風体だった。和田のように汚く、血まみれで、その中の一人は片眼がなかった。他にも何かあったのかもしれないが、それ以上見ている事は出来なかった。
 僕は四つんばいになりながら、とにかくその場を離れた。
< 258 / 272 >

この作品をシェア

pagetop