domino
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 「なんでここに神田がいる?神田は行方不明のはずじゃ・・・。」
 一瞬、僕は神田も和田のような現象じゃないか、そんな風に考えた。少し遠くから神田を観察してみた。特に汚い格好をしている訳でもなく、血みどろでもなかった。それどころか、きちんとしたスーツを着ていた。
 「あいつ、友里に何かする気か?」
 以前の神田がとった友里への行動を考えるとそう考える方が自然だった。神田の前に駆け寄りこう言った。
 「神田。ここへ何しに来た?」
 僕の顔を見ると薄ら笑いを浮かべて意外な事を言った。
 「大河内さん、この度は結婚おめでとうございます。いや、彼女に今までの事のお詫びとお祝いの言葉をと思いましてね。ご迷惑とは思ったんですが、ちょっと立ち寄らせてもらいましたよ。」
 あまりの素直な言葉に僕は何も言う事が出来なくなってしまった。
 「ああ。」
 しかし、素直な神田はここまでだった。
 「ところで、今まで俺がどうしていたか知っています?」
 急に以前の嫌みな神田の口調に戻った。態度の急変を感じた僕は、あまり余計な事を言わない方が良いと思い首を横に振るだけにした。
 「寒かったなあ。辛かったなあ。痛かったなあ。」
 僕の目をじっと見つめたまま、少しずつ顔を近づけてこう言ってきた。神田の言っている意味が全くわからなかった。僕は黙って我慢していた。
 「覚えていないんですか?あの日の事?」
 「あの日?あの日っていつの事だ?」
 いくら考えてみても一向に思い出せなかった。その時に久しぶりにあの声が聞こえた。
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