domino
15
 昨日の彼女は反対方向に歩いていた。とすれば、彼女の家はたぶん逆方向にあるだろう。だけど、今彼女はここにいた。
 「なんで、彼女がここにいるんだ??」
 「家は逆だよな。」
 こんな言葉を何回頭の中で繰り返しただろう。でも、いくら繰り返しても彼女が目の前から消えたり、夢から覚めたりする事はなく、彼女は雑誌売り場で、ファッション雑誌を立ち読みしていた。まさしく、現実だった。
 僕は、自分が持っている最大限の勇気を持って彼女の隣で、パソコン雑誌を立ち読みしてみた。パソコン雑誌1:彼女を横目でチラリ9、こんな割合で彼女を見つめていた。
 コンビニの異常なまでの明るさが、彼女をいっそうまぶしく見せてくれた。いつもの電車で見る表情とは違ったリラックスした感じがたまらなく魅力的だった。僕が思いつく限りの褒め言葉をどんなに連ねても絶対に言い尽くせない、それほど魅力的だった。
 一通り記事を読み終えたのだろうか、彼女は店内を巡り始めた。何種類かのお菓子と飲み物を手に取ると彼女はすぐにレジを済ませ、出て行ってしまった。
 その一部始終を僕は立ち読みしながら見つめ続けた。彼女は僕に気がついていなかったみたいだだった。だけど、彼女を見つめる僕の姿は他の客にはとても怪しく見えた事だろう。それくらい、僕は彼女に釘付けだった。
 彼女が見えなくなり、僕の気持ちも落ち着いてきた。その時、ふと足下に何かが落ちている事に気がついた。拾い上げるとピンク色のかわいい定期入れだった。乗車駅、降車駅、有効期限、そんな順に定期に目をやっていくと、“鈴木友里”の4文字が見えた。
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