ピアノを弾く黒猫
「まぁ!
初夜くんは高校生なの?」
「はい」
夕ご飯のビーフシチューを食べながら、お母さんが黒田くんを質問攻めしていた。
黒田くんも笑みを浮かべながら、お母さんの質問に答えている。
「初夜くんは将来何になるつもり?」
お母さんの何十個目になるかわからない質問に、黒田くんはスプーンを置いた。
そして一瞬考えると、ふっと笑った。
「わかりませんね。
俺まだ、そこまで考えていないので」
「え?
黒田くん決めてないの?」
「そうですけど」
あたしは正直、勿体ないと思った。
あたしのいる音大に入学しても、構わない実力を彼は持っている気がする。
むしろあたしと同期で入学してピアニストを目指しているような人よりも、黒田くんは上手いと思う。
それなのに音楽への道へ進まないなんて。
「お母さん。
黒田くんね、さっきあたしと連弾したのよ。
凄く上手かったんだから!」
「あら、優子が他人を褒めるなんて珍しいわね。
褒めることはしないし、下手とも言わないんだもの。
何を考えているのかわからない子だったのに」
確かに、あたしが誰かの実力を認めるなんて珍しい。
その人が上手いかどうか見極めるほど、あたし自身実力はないけど。
あたしが上手いと今まで思って来た人たちの中で才能が開花し、その道で有名な人は多い。
あたしは密かに由香から、『才能が世間に認められる人を探すのが上手い』って言われているほどだ。