ピアノを弾く黒猫

白薔薇の蕾









奈々恵さんと別れたあたしは、ビルを出て家へと向かっていた。




「あ、優子さーん!」



後ろから聞こえた声に、自分の意思とは反して立ち止まる。

会いたくなかったのに…何で会っちゃうんだろう?




「黒田くん……」




どこにでもあるような学ランを着た黒田くんが、ニコニコ笑顔で立っていた。

いつも黒い私服だったから、何だか珍しい光景だ。

まぁ学ランも、金ボタンが並んだ黒い服なんだけど。





「今からお帰りですか?」

「……そうよ」

「どうしたんですか優子さん。
何だか今日元気ないですね」




あたしは後ろを向いて、思い切り黒田くんの右頬を叩いた。

静かな住宅街に、パンッと乾いた音が響いた。




「…ど、どうしたんですか?」



右頬を押さえながら、黒田くんがあたしを見る。

黒き双眸が、あたしを映している。




「…何で嘘ついたのよ」

「え?」




黒田くんが、止まった。






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