ピアノを弾く黒猫








☆初夜side☆




俺がピアノを始めたのは、5歳の頃だった。

父親がピアノをしていて、その影響で始めた。




ピアノが大好きだった。

ピアノは、音楽は、人を笑顔に出来ると思っていたから。

綺麗な音色が生む世界が、大好きだった。





どんな時間もピアノに費やした俺は、どんどん名前を広め、いつしか天才少年と呼ばれるまでに成長した。

別にメディアに騒いでほしくて始めたピアノじゃない。

どんなに言われても、俺は自分が好きなピアノを弾き続けた。





だから、ショックだったんだ。

憧れていて同時に尊敬もしていたピアニストだった父親に、裏切られたのは。





父親は俺を含む家族に何も言わず、行方をくらました。

その上、何億にものぼる借金を残して。

毎日家にやってくる借金取りから逃れるため、俺はピアノを弾いた。





いつしかあれほど大好きだったピアノが、ただ借金を返すためだけの道具となってしまっていたんだ。

来る日も来る日もピアノを弾き続け、名前を広めて、コンサートも開いて。




求めていたのは、お客の笑顔じゃない。

お客が払う、お金が目当てになっていたんだ。






< 65 / 76 >

この作品をシェア

pagetop