ピアノを弾く黒猫
☆初夜side☆
俺がピアノを始めたのは、5歳の頃だった。
父親がピアノをしていて、その影響で始めた。
ピアノが大好きだった。
ピアノは、音楽は、人を笑顔に出来ると思っていたから。
綺麗な音色が生む世界が、大好きだった。
どんな時間もピアノに費やした俺は、どんどん名前を広め、いつしか天才少年と呼ばれるまでに成長した。
別にメディアに騒いでほしくて始めたピアノじゃない。
どんなに言われても、俺は自分が好きなピアノを弾き続けた。
だから、ショックだったんだ。
憧れていて同時に尊敬もしていたピアニストだった父親に、裏切られたのは。
父親は俺を含む家族に何も言わず、行方をくらました。
その上、何億にものぼる借金を残して。
毎日家にやってくる借金取りから逃れるため、俺はピアノを弾いた。
いつしかあれほど大好きだったピアノが、ただ借金を返すためだけの道具となってしまっていたんだ。
来る日も来る日もピアノを弾き続け、名前を広めて、コンサートも開いて。
求めていたのは、お客の笑顔じゃない。
お客が払う、お金が目当てになっていたんだ。