時は過ぎていく。
赤い赫い...
――これは、今から数年前の話。




どこからか、人間の断末魔が聞こえてくる。
それは“怒号”のようにも、“悲鳴”のようにも、“雄叫び”のようにも…聞こえる。
誰もが助けを求め、焼けただれた体の一部を引きずりながら川を目指し歩く。
「…み、水……水は…ど、…こ……?」
「だ……れ、か…たす……け…て、み、…水を……」
「お、か……あ、さん…」
「痛い…痛いよぅ、だ、だれ…か……」
それらは手を伸ばし、体中からどす黒い赤い、赤い、紅い……血を流しながら歩く。
人々の変わり果てた姿と、その場所はまるで[地獄]のようである。


「…はぁっ、ごほっごほっ…はぁはぁっ…お、かあ…さ、ま……?」

呼吸が荒く、もはや手なのかどうかも怪しい黒焦げになっている“塊”を見つめ、“何か”を必死になって探す独りの少女。
二つに結んであった、可愛らしいおさげも、原型をとどめていない。
手は炭だらけで真っ黒。
肘も、膝も、顔すらも、炭で黒くなってしまっていた。
跡形もなくなったような、“家の跡”。
少女は泣き叫んだ。

「………はや、くっ!!…出てきてくださいっ……!!!!!」

無我夢中で“何か”を探す少女。
自分のすぐ背後まで火の手が迫っている事も、忘れている。
這いつくばって、燃えている欠片にすら手を伸ばす。
ふと、小さな黒焦げの“塊”を探し当てた。
小さいリングのよう……これは結婚指輪。
お父さんの物か、お母さんの物か、それすらも分からなくなってしまっているその“塊”。
その少女は、黒焦げの“塊”を見つめてから、投げ捨てた。

「…な、な、……何かの…ごほっ、間違い……」

少女はその場にうずくまって耳を塞いだ。
もう、何も聞きたくない。
もう、何も受けつけたくない。
もう、こんな所からは早く逃げよう。
お母さん、お父さん、雛菊……。
たちまち、黒い煙が立ちのぼり……あたりを一瞬にして覆ってしまう。
鼻からも、口からも、息を吸うことが困難で、とても苦しい。



少女はそこで、うっすらと眠気を覚えた――――――


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