あたしはそっと月になる
「なんか迷惑だったかな…?だとしたら、ゴメンな」



歩きながら、矢口潤が心配そうにあたしを見ながらつぶやく。



違う……。そうじゃない。違うんだよ。



緊張しているだけ。それだけなんだ。



どうしても素直にはなれないだけ。



お願い……誤解しないで………。



そうは思っていても、



あたしから出る言葉はまたちっとも可愛くないひと言。



「別に……」



本当は嬉しいの。



嬉しくてたまらない。



嬉しくて、愛しくて……。



「そっかっ……それならよかった…雨でもホントは部活あるんだけどさ、今日は俺、さぼりなんだ」



そんなあたしの素っ気ないひと言にも嬉しそうに答えてくれる矢口潤。



「へぇ……矢口でもさぼることあるんだ??」



「そりゃあね…だって雨だと校舎内をグルグルと何週も走るんだぜ。たまには俺も息抜き!」



その笑顔も、その声も、



今は…今だけは…



あたしの独り占め。



実夕ではなく、この瞬間はあたしに、あたしだけに向けられているんだよね。



そう思っていいんだよね。



嬉しい。



こんな風に嬉しいって思うのもダメなのかな…。



思うだけならいいのかな。



そう思うだけなら……



口に出さなければ……。



それくらいならば……。



嬉しいと思うくらいならば……いいのかな?

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