幻想館ーシンデレラ編ー

素懐

それは病院からの報せだった。



幼い頃、私は母からひき放されて育った。

同じ屋根の下で暮らしていたにもかかわらず、屋敷の中で出会う事はなかった。


今思えば、父ともめったに会わなかった。

私は執事と世話係のメイドと共に、日々を送っていた。



中学生の時に、何度か母の部屋の前まで行ったが、扉をこの手で開く事はなかった。


何をためらっていたのかはわからない。



そう、手紙なら!


扉の下の隙間から、そっと手紙を入れておいた。




只、その手紙を母が読んだかどうかはわからないが・・・。




それから何年か経ち母は屋敷を出された


私は母の姿を見るのを、この瞬間逃したら・・・そう思った。


でも近くまで行く事は許されなかったので、二階の窓からそっと母の姿を目で追った。



その時の母は、何度か屋敷の方を振り返っていた



ほんの少しの時間ではあったが、私は母の面影を伺う事ができた。



美しい母・・・そんな印象だった。



その印象を目に焼き付けて、私は大人になった。



大学を卒業後、ある企業に就職した。


父は自分の経営する会社に入れと言っていたが私は敢えてそうはしなかった。



父も特に強要する事もせず、その後余り会う事もなくなった。

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