だめだ、これが恋というのなら


次、俺が目を開けたのは、彼女に押されて、床に倒れた時だった。



『…え…司…?』


麻里も浩二も、他の女も全員が息を呑む。


そして彼女は、彼女の目からは一粒の涙が頬を伝っていた。




『ごめん、俺、酔うとキス魔になるみたいでさ?
 なんかキスしたい気分で、ついしちゃった、ごめんな?』


『そ…そうなんだ』


みんなが俺の言葉に強引に納得する。


でも、彼女だけは違った。



『……帰る』


彼女はそう言って、すくっと立ち上がって、コートやカバンを持ち、玄関の方へと走っていく。



『あ、送る』


俺も立ち上がり、彼女の後を、そう思ったけど。



『…いらない!』


彼女は大きな声で、そう叫んだ。


俺は彼女の言葉を無視して、玄関のドアまでくると、彼女はうまく靴が履けずに、まだ玄関にいた。



『…あ、あのさ…』


なんて言っていいか思いつかなかったけど、俺は彼女にそう声をかける。




『さっきのは…ほんと、ただ、したくなって』

『誰とでもいいキスなら、他の人としてください』


彼女は、多分、怒っていたんだと思う。

口調がそんな感じだったから。



『…え、てかキスごときで大げさじゃない?』


俺は玄関の壁にもたれかかり、彼女を見下すように話す。



『……大袈裟…?……キスごとき…?』


そして彼女は顔を上げて、その綺麗な顔で、


『あなたには大袈裟なものじゃないかもしれないけど…
 私には…私には大げさじゃないんです!』


そう怒鳴った。




『悪かったよ…冗談でキスなんかして…』


心の中では、正直、まだそんなことでそこまで怒るもの?とか。

どうして、そこまで言われなきゃなんないの?とか。

逆のことを考えていたのに。




『…最低だよ』


彼女の小さな声で、でも俺の耳にしっかり聞こえた、その一言が胸を刺す。


そして、最後の彼女の涙に、俺は何も言えなかった。


『…最低だよ!!』


彼女はそう叫んで、勢いよくドアを開けて、そして俺の家から飛び出して行く。



俺はただ、その姿を、見つめることしか出来なかった。



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