だめだ、これが恋というのなら


『何言うかと思えば…変なこというなよ』


俺は浩二を軽くどついた。



『それに、俺、最低とか怒鳴られたし。
 俺だってあんな女好きじゃねぇよ』


俺はそう言って、浩二のお気に入りのタバコに火をつける。

ぷーんと香る、浩二の匂い。


『お前、最低とか女に言われたことあんの?』


『あるある、何度も。
 遊ぼうって誘われて、その約束をすっぽかした時、
 セフレでもいいからって言われて本当にセフレにした時、
 それから……キスして、ただしたくなったからしたって言った時』


『最後のって芽衣じゃん』


浩二はそう言って、吹き出す。



『本当に、ただしたくなったから?』


浩二の問いかけに、再び俺は詰まる。



多分。


多分、いや絶対にそうだ。


だって、俺は今まで本気でキスしたい、こいつとキスしたい、そう思ったことは一度もない。


せがまれてキスするくらいで。


だって、ファーストキスだって、そうだったんだから。



『なぁ、司?
 恋愛ってさ、怖いと思わねぇ?』


『…何が?』


『なんかさ、一人の時って我を通せるじゃん?
 けど、特別な奴ができると我を通せなくなる。
 なんつーか、自分を誤魔化しきれないっていうか?』


浩二の言ってる言葉の意味が分からない。


『つまり、相手を想う自分の気持ちに偽れないっていうかさ…
 まぁ…そのうち、お前も誰かと恋してわかると思うんだけどさ』



浩二、俺は恋はしない、

俺は恋をしようとも思わない、

それに、俺は恋をしちゃいけない。



『浩二、俺は特定の奴なんて作らない。
 そういうのに振り回されるのも面倒くさいし。
 もっと簡単で、割り切った関係の方が後腐れもないし』


俺はそう言って、タバコをふかす。



『とりあえず、謝っといたほうがいいんじゃね?』


浩二の言葉に、俺は何も返事が出来なかった。



俺、アイツの話題には返事出来ないことが多い。


なんで?



< 13 / 52 >

この作品をシェア

pagetop