だめだ、これが恋というのなら


集合場所には浩二、麻里、そしてどう説得したのかあの女が立っていた。



『司ーおはよ♪』

麻里は語尾までルンルンで俺に声をかける。


『休みの日まで司に会えるなんて得しちゃったなぁ』


麻里は相変わらず可愛らしいことを口にする。



でも、その横のあの女はぶすっとした顔をしてるだけ。


この違いは一体なんなんだろう…


あ、麻里は俺に好意があって、あの女は俺に敵意を持ってるからか…




『じゃ、お邪魔しまーす』


麻里はそう言って、後部座席に乗り込む。



『はい、芽衣も』


浩二に押され、あの女も麻里の隣に座った。




『司、ごめんな~』


浩二は悪気も感じられない様子で、そう言って、助手席に座った。




『ほんとだよ…こんな朝早くから運転とか、マジありえない…』


『え、だって車持ってんの司だけじゃん』


『電車でいけよ』


『帰りとか、女の子のことは送っていかなきゃダメじゃん』


『紳士気取りなら、お前がレンタカーでも借りればいいだろう』


俺の言葉に浩二は“ごめんね~”と形だけの謝罪をする。



『二人って仲いいのか悪いのか分からなーい』

麻里は後部座席から俺たちの会話に入ってくる。


俺はチラッとミラー越しに後ろの席を見る。

正確に言えば、後ろの席のあの女。


俺たちの会話には入りません、そう言ってるのかとツッコミをいれたくなるくらい、彼女は窓から見える景色を眺めているだけだった。


目的地に着くまで、車内の会話は終始俺たち3人だけだった。


駐車場に無事に着くと、みんなは外に出て、背伸びをする。


俺も背伸びをすると、浩二がにこやかな顔を見せながら、俺に缶コーヒーを差し出した。



『お、サンキュー』


俺は喜んで缶コーヒーを受け取り、一気に飲む。


起きてから水分といってもいい水分はとってなかったし、車内は話してばっかだったし、もう喉はからからだった。


その様子を見て、浩二はにやっと笑った。




『お礼なら、芽衣に言うんだな』


浩二の言葉に俺は、“え”と漏らす。



『駐車場に着いてすぐ、そこの自販機で買ったんだよ、芽衣が』


俺は手にしている缶コーヒーを見つめる。



『想われてんのな、お前』


浩二の言葉に、俺は彼女を見つめる。



『…違うだろ、だって、すげー嫌われてるみたいだし、俺…』



視線の先では彼女と麻里が笑い合ってる。


俺に見せる、あの不自然な笑顔ではなく、本当に心からの笑顔。




『嫌われてたら、こんなこと誰もしないだろ?』



嫌われてたら、こんなことしない…


じゃ、なんだって言うんだよ。


この缶コーヒーの意味はなんなんだよ…。




あの時、俺のことが嫌いなら、そう言った時、アイツは笑ったんだ。



なのに、違うっていうのかよ…?






< 23 / 52 >

この作品をシェア

pagetop