だめだ、これが恋というのなら

『誰？』


浩二は未だに特定できていない。


ま、別に俺も好きとか気になるとか、そういう類でその女を見てるわけではない。



『あ、司～』


またもや甘ったるしい声で呼ばれる。

それも今視線を向けている女グループの一人から。


『よぉ』


俺が声をかけると、そのグループの女はぞろぞろと俺の元にやってきた。


でも、俺が視線を向けていた、あの女だけはそのグループから離れて、先に講義室の方へと向かった。


『司、おはよ』


みんなそう。


またこいつらも当たり前のように俺の腕に自分たちの腕を絡ませる。


こういうのも、甘ったるしい声を出す女も苦手。


でも俺は自分の本音に蓋をして、その女たちに笑顔を振りまく。


こいつらは同じ学科だし、雪奈のように体の関係があるわけでもないし。



『あのね、昨日ね？』


でも、俺は俺の元に来ない、あの女の方に視線を向ける。



なんで、あの女は俺のことをいつも透明人間のように無視するんだろう。




『司、聞いてる？』


『あ、あぁ…それでどうしたって？』


俺はそう口にするも全くといっていいほどこの話に興味ない。


それよりも背筋をピシッと伸ばして歩く、あの訳の分からない女を見つめる。



『司、全然聞いてないじゃん！』

腕をブルンブルン振られ、俺は視線を腕を持ち上げている女に移した。



『司、今度は芽衣のこと狙ってんの？』

俺の腕を持ち上げてる女は俺のことなんてお見通しと言わんばかりに、そう問いかけてくる。


もし、“そうだよ”って答えたら、この女はなんて返してくるだろう…



『麻里さ、俺が女に入れ込まないの知ってるでしょ？』


でも、俺はそう答えた。


だって、俺は知ってる。


俺が素直に、“可愛いよね”とか“狙ってる”とか“落としたい”とか、そういうフレーズを簡単に口にすると、その女が周りの女から嫌がらせを受けることを。


だから迂闊に物を言えない。


な、浩二、俺なんかすごくもなければ、いいこと何もないだろう？


てか、あんな女なんてどうでもいいんだけど。



『知ってるよ？
　でも司、よく芽衣のこと見てるから』



……え……？


俺が？


あんなどうでもいい女のことを？



『え、そう？』


多少なりと麻里の言葉に動揺したけれど、俺は至って何もなかったように振舞う。



俺、あんな女なんか見てる？




『ふ～ん…
　でも芽衣はやめてあげてね？』


『なんで？』


『芽衣、純粋だから、司の毒牙なんかにかかったら、あの子、恋なんて二度と出来なくなると思うから』


麻里の言葉にふと母親からの言葉が脳裏にフラッシュバックした。



『麻里、大丈夫だって。
　あの女、全く興味ないから』


俺は笑って答えたけど、麻里は俺の言葉を少し疑っているようだった。


そんな気配はあったものの、俺は何事もなかったように麻里に笑みを見せた。