君をひたすら傷つけて
 まりえはリズの琴線に触れるらしく、モデルにしてリズはスタイリングの練習をしていた。真っ直ぐな髪がクルクルと巻かれ形を変えて行き、肌はその時のリズの気分で変えられる。私はそれを見ながら、リズに言われたとおりに道具を渡したりする。プロとして自分の技術を衰えさせないためにしていることを最初は見ていたけど、次第に言われるがままに道具を渡したりはする。

 それは仕事でなく、単なるお手伝い。リズの技術に目を奪われることはあってもアシスタントとして役に立つとは思えなかった。アシスタントどころか足手まといになる。

「無理よ。まりえが帰ってくるのを待ったら?」

「それじゃ間に合わないの。ね、私を助けると思って。いつものように私が言うメイク道具やドライヤーを取ったりするだけでいいの。お願い。どうしても私だけじゃ無理なの」

「でも…」

「今回の仕事は次のコレクションにも絡むからどうしても穴を開けたくないの」

 リズは私に懇願する。リズの仕事だけでなく仕事というものは信用が大事なのは分かる。特にリズのように独立しているフリーのスタイリストは会社の後ろ盾がない分、一回一回の信用を積み重ねるしかなかった。自分の名前だけで仕事をしている厳しさでもあった。この業界では名前の売れたスタイリストでも一度信用を失うと大変なことになる。

「役に立たないからって怒らないでよ。とりあえず行くだけ行く」

「もちろんよ。本当に助かる」

 まりえが居ない今、仕方ないと思った。
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