君をひたすら傷つけて
「将来が楽しみね」

「ああ。でも、雅の将来も楽しみだ。雅もいいスタイリストになれるよ」

 私は自分の顔が緩むのを感じた。分かっているのに比べてしまう。こんなに自分が妬くとは思いもしなかった。でも、さっきお兄ちゃんが『篠崎海』のことを褒める顔に少しだけ似ている気がした。

 お兄ちゃんの言葉に顔が緩み、機嫌がよくなる自分がいる。お兄ちゃんに甘えている私がいる。何故こんなにもお兄ちゃんには甘えるのだろう。

 お兄ちゃんは川の流れを見たまま、フッともう一度息を吐くのだった。ゆっくりと頬を撫でるような風が吹き、お兄ちゃんの髪を揺らしている。オレンジ色の夕日はお兄ちゃんもオレンジ色に染めていた。

「雅の話を聞いていると頑張っているのが分かった。学校を卒業したらどうする?このまま、フランスで仕事をするのか?それとも日本に帰ってくるのか?」

 もうすぐ学校も修了する。

 まだ、何も先は決めてないけど、もう少しで決めないといけない時が近づいていた。両親は日本で就職することを望んでいる。でも、フランスでの仕事もリズのおかげで軌道に乗っている。今、辞めるのは勿体ない。そんなことを考えるとまだ決めかねている私がいて言葉が、心が見つからなかった。
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