君をひたすら傷つけて

恋人との時間

 リズに言わなければよかったと後悔したのは数回目の着替えを終わらせてからだった。急だったから色々集めてきたからと言う言葉は誇張でも何でもなく床に置かれた袋からは何着もの服が出てくる。そして、後悔を感じてから数着目のワンピースを見て、リズはニッコリと笑った。

 リズの満足そうな顔に及第点が出たのだとホッとした。リズが頷いたのは色はオフホワイトのワンピースで上半身は身体のラインを綺麗に見せながらもデコルテのカットが丸みを帯びていて、開きすぎでもなく、詰まり過ぎでもないものだった。スカートはチュールレースを重ねたもので裾には上品なレースをあしらっている。華やかな感じなのにどこか可愛らしかった。

 これは仕事帰りに会う時に着る服ではなく、思いっきりの勝負服。昨日の今日で張り切り過ぎではないだろうか。

「これはちょっと可愛すぎる気がする」

「似合うわ。次は髪型よね。仕事帰りということだから、結った方がいいのだろうけど、雅の髪は綺麗だからそのまま真っ直ぐに垂らした方がいいかも」

 リズは私の意見は聞くつもりがないのか、ワンピースをこれに決めて、次は私の髪を結わえたり、捩じったりと、どうしようか思案しているようだった。スタイリストの血が騒ぐのか楽しそうにしている。

「夜にデートならこのくらいの華やかさはいるわよね。何といっても初デート」

「アルベールの仕事が終わってだから、そんなにオシャレする必要はないと思うけど」

「ダメよ。今までと違う自分を演出しないと」

 リズはそう言うけど、私とアルベールはそんなんじゃないと思う。友達の延長線にあるだけの関係。少しだけ足を踏み出してみようかと思う関係だった。
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