あなたと恋の始め方①
「私も凄いですよ。触ってみます?」


 そう言って私が小林さんの手を取ろうとすると小林さんの鼓動が急に大きくなって…。見上げると小林さんはちょっとだけ困ったような顔をしていた。そして、私の手をすり抜けたその手は私の髪をポンポンと撫でた。


「そろそろ送る。遅くなるし」


 そうボソッと言葉を零すと車を動かし出した。運転をしているのだから仕方ないけど小林さんは何も話さないし、真っ直ぐに前を向いたまま。もっと、一緒に居たいと思っていたのに今の小林さんは私はさっさとマンションに帰したいようにさえ見える。さっきまでの優しい雰囲気が全く消えているので、私は何か悪いことをしたのかもしれない。


 でも、さっきからの流れでどこに小林さんの怒りポイントがあるのか分からない。横顔を見ながら考えても分からない。でも、いつも優しい小林さんは何か悪いことしないとこんな態度を取るわけないとも思った。


「ごめんなさい」


「え。何が?」


 私はそういうと、小林さんは心底驚いたような声を出した。怒ってなかったのだろうか?


「怒っているんでしょ。でも、私には分からないの」


 そう自分の気持ちを言葉にすると急に不安になった。嫌われたくないと思う心が私の中にはあって、好きと自分の心を曝け出したからか、より一層怖くなる。今まで人に何をどう思われようと自分は自分だし、周りの評価も何もかもどうでもよかった仕事さえ出来ればそれでよかった。


 でも、今は違う。


「違うよ。怒ってない。でも、我慢はしてる」

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