あなたと恋の始め方①
『ありがとうございます。おやすみなさい』


 それ以外に私は何もメールに打つことが出来なかった。頭の中にたくさんの言葉が溢れているのに指は動かない。唇を噛み、キュッと両手を握るしかない。折戸さんのことを思うとその優しさに泣きそうになる。プロポーズを断った私が少しでも心が軽くなるように折戸さんは動く。


 このタイミングでメールをくれたのは、きっと、自分の部屋に戻ってきた私が折戸さんに小林さんの事をどう報告していいか悩まないようにとのことだと思う。


 ありがとうございます。
 ありがとうございます。


 小林さんのことを好きな私は折戸さんの気持ちに応えることが出来ない。それでも、私にとって折戸さんは大事な人であるのには間違いない。会社の先輩でもあるけど、人間的にも尊敬しているし、その優しさと強さに眩しさを感じる。


「私も幸せになりたいです」



 そんな言葉を呟くと私はパソコンの電源を落としベッドに入った。折戸さんのメールで心は少しだけ軽くて、悩まずに寝ることが出来そうだった。


 目を閉じるとさっきまで折戸さんのことを考えていたのに、瞼の裏に焼き付いているのは小林さんの笑顔だった。端正で整った顔をしているのに、ふと笑った瞬間に無邪気な表情を見せる。そんな小林さんに私は恋をしている。


『もっと好きになって貰えるようになりたいな』

 
 そんなことを考えながら恋愛に疎い私はぐっすりと眠りの淵に落ちて行ったのだった。

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