あなたと恋の始め方①
 だからどうすると言われてもなんとなく他人事で自分の事とは思えない。フランス留学…。やっぱり現実味がない。


「どうすると言われても私に決まったわけではないですよね。高見主任は断るなら二週間以内にと言われてます。今の研究もありますし、中垣先輩も私もフランス留学の候補から外れると思いますが?」


 中垣先輩は私の方にもう一度チラッと視線を向け、溜め息を吐き、手に持っていたマグカップを机に置いた。


「坂上は何も知らないんだな。甘やかされているとしかいいようがない。高見龍太本人から聞いたと思っていたけど本社営業一課のエースも甘いもんだ」



「え?」


「考えてみろ。他の研究室は新しい研究に入るだろ。すると新しいチームが組まれるからそこから研究員が外れることはない。それに比べてこの研究室の研究は期日が迫っているとはいえ、研究室の中では安定した成果を出している。研究所としたら新しい研究に入ったばかりの研究室と期日は厳しいが、確実に成果を上げている研究室ならどっちから留学させる?俺かお前かどちらかがフランスに行くようにとの話が濃厚だ。俺が行かないなら必然的に坂上が行くことになる。まあ、内々の話だから決まったわけではないが、かなり現実味を帯びているのは間違いない」


 でも、高見主任は二週間の期限をくれた。私は中垣先輩に言われるように甘やかされているのかもしれない。この研究室のリーダーは中垣先輩だということを考えると、研究所としては私がフランス留学の第一候補ということになる。
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