あなたと恋の始め方①
 結局、小林さんはこれからの季節に役立ちそうなネイビーのシャツで、私はちょっと淡いクリーム色のワンピースだった。裾の辺りには綺麗なレースが縫い付けられていて、綺麗なのに、その素材からか柔らかい感じを醸し出していた。店で見つけて可愛いとは思ったけど、私が着るには可愛すぎて縁のないものと思っていた。でも、それを見た小林さんに強引に試着を進められ、その上に絶賛されたのだから、つい買ってしまった。


「とっても似合うから、今度のデートに着てきて」


 そんな甘い言葉を囁かれたら恥ずかしいけど着てみようかと思う。小林さんに出会う前の私なら絶対にこんな可愛らしいワンピースは手にさえ取らなかっただろう。それにしてもなんでこんなにも楽しいのだろう。こんな楽しい時間はこれからも何度もあると思うと、目の前は綺麗に開けた気がした。真っ直ぐに上を向いて背筋を伸びるような気がした。


「はい」


「絶対に似合う」


「だといいですが」


「絶対に似合う。美羽ちゃんの可愛さが倍増だよ」


 そんな小林さんの言葉に私は自分の頬が染まるのを感じずにはいられなかった。小林さんの目は乱視が入っているのかもしれない。


「視力大丈夫ですか?」


「俺、両目とも1.5だよ」


 そう言って小林さんはニッコリと笑った。


 楽しい時間ほど早く過ぎるのは分かっていたけど、私がいつも以上に時間の流れが早く感じるのは小林さんと一緒だからだと思う。もう少し二人で楽しみたいと思ったけど、明日のことを考えるともう帰らないといけない時間になっていた。

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