あなたと恋の始め方①
 さっきから自分の中で言えなかった言葉がスラスラと出てきて驚いた。吃驚して小林さんの方を見るとニッコリ笑ってて、それが嬉しそうなのが困惑する。


「美羽ちゃんって、あんまり感情が出ない方だと思っていたけど、映画を見ると泣いちゃったりするんだね。とっても可愛い。そんなに可愛いなら今度俺が独り占めできる時に映画は見ることにしようか?」


「映画は一人で見ます」


「いいじゃん。俺と見ようよ」


「嫌です。一人で見ますって」


「蒼空先輩?」


 案内板の前でそんな話をしていると、不意に後ろから可愛らしい女の子の声が聞こえた。その声は小林さんに向けられたものだった。小林さんはその声に振り向くと、一瞬吃驚したような顔をしたけど、すぐにとても優しい顔で笑った。


 私がその女の子に視線を向けてドキッとしてしまったのは女の私から見ても可愛いという表現がぴったりの女の子で、優しい雰囲気を纏いながら、小林さんにも私にも周りを和ますような微笑みを浮かべていたのだった。



「お久しぶりです。蒼空先輩。先輩も映画ですか?」


「久しぶりだね。のどか。律は一緒?」


 小林さんの優しい声が私の耳に届くその声を聞いただけで私には分かってしまった。


 この女の子のことをきっと小林さんは好きだったのだろうと。

 
< 384 / 403 >

この作品をシェア

pagetop