あなたと恋の始め方①
 二人の背中を見ていると羨ましい気持ちになった。二人ともが思いやり深く理解しあっているように見えた。私と小林さんが付き合いだしたのは先週からだから一ノ瀬さんとのどかさんのようになれる訳はないのは分かっている。でも、羨ましいという気持ちは中々晴れない。


「美羽ちゃん。映画は今度にして今日は買い物でもしよう。俺は美羽ちゃんが号泣して涙を拭くのは嬉しいことだけど、美羽ちゃんが恥ずかしいとか、俺が居ることで感情移入出来ないと楽しくないよね。だから、映画は今度にしよう」


「のどかさんのこと…。好きだったのですか?」


 つい、心の中にあった言葉がぽろっと出てしまった。言わなきゃいいのにと思ったし、後悔もしたけど、一度口から出た言葉は消すことは出来ない。


 小林さんは私の気持ちに気付いたのだろう。そっと、少し映画館から離れた場所にあるベンチに私を座らせると、キュッと私の手を握ったのだった。


「どうなんだろうね。毎日、練習が厳しくて辞めたいと思っていた時にのどかに会ったんだ。毎日、練習を見に来る女の子の一人だったけど、歓声を上げる女の子たちの中で一人静かで妙に真剣に練習を見ているから、気になって。話してみたらとっても穏やかな女の子だった。自分の中で焦っていたから少し癒された気がしたんだ。それを好きだというなら好きなのかもしれないけど、今、美羽ちゃんに対する思いとは違うからどうなのか分からない」


「そうなんですね」


「もしかして美羽ちゃん。ヤキモチでも妬いてくれたの?」


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