あなたと恋の始め方①
 折戸さんが来たからだと思ったけど、それにしても凄い人だかりだった。私は買ったばかりの缶コーヒーを持って反対側まで歩いていくと、白衣の人混みの中から歓声にも満ちた声が聞こえている。私は折戸さんに挨拶をしようと思って人混みの中に入っていくとそこにいたのは折戸さんだけではなかった。


 本社の取締役と一緒に来たのは、折戸さんだけでなく、高見主任もだった。まさか高見主任まで研究所に来るとは思わなかった。


 二人並ぶとそれは圧倒的な破壊力で女の子の視線を釘付けにしている。一人でも女の子を蕩かす魅力なのに、二人並ぶと圧巻だった。女の子たちの瞳はハートになり、とろんと潤ませている。こんなの見たことない。横にいる女の子はボソッと呟く。語尾にハートマークが飛んでいる。


「すごい格好いい。本社営業一課のエースが二人も来るなんて。噂に聞いていた以上の麗しさ。マジでヤバイ」


 厳しさの中に艶やかさを持つ高見主任と、穏やかさの中に華やかさを持つ折戸さんが研究所に入ってきただけで、女の子たちの騒ぐ声が絶えない。本社営業一課の時は、周りが男の人ばかりだったから、こんな状況にはならなかったけど、二人の凄さを目の当たりにした。



 取締役が所長室に真っ直ぐ向かって歩く少し後ろを高見主任と折戸さんが並んで歩く。二人とも本社営業一課の時のように双璧をなし、誰よりも存在感を醸し出す。前を歩く取締役の方が霞むほどだった。


 そして、人混みの中にいる私に気付いたのは高見主任だった。

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