小路に咲いた小さな花
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「おはよー」

「おはよう」

朝の挨拶はいつも通り。

敬ちゃんはニコニコしてる。

「今日も頭に葉っぱついてる」

「あ。うん。大丈夫」

すかさず逃げると、目を丸くされて微かに笑われた。

この、微かに笑う方が敬ちゃんの地なのかもしれない。

どこか爽やかで、どこか邪悪。

今日もスッキリスーツを着こなして、毎日朝の挨拶を交わして、毎朝人の頭にキスしてから出勤していく。

おかげで昼間のお客様には恵まれるようになったけど、噂話に花まで咲いてしまう。

「逃げるの?」

「逃げるでしょうよ。当たり前じゃないの」

「嫌?」

嫌じゃないから困るんです。

どちらかと言うと嬉しいです。

嬉しいけれど、嬉しくないと言うか、商店街の雰囲気が、と言うか……

からかって来られるのに対応するスキルが私にはない。

「付き合ってるんだから、これくらいは普通でしょ」

「つ、付き合ってない……」

「そういう事を言ってると、既成事実作るよ?」

どこまでも黒い発言の敬ちゃん。

「敬介。うちの娘で遊ぶなよ」

店から親父様が出てきて、敬ちゃんと目が合うと苦笑する。

「珍しい。井ノ原さんがいる」

「さすがにお前んとこの母親にドヤされたんだよ。でもまぁ、お互いにいい歳なんだから、騒ぐことでもないだろう?」

「そうだね。放っておいてもらった方が嬉しいけど」

「……さすがに、既成事実を見逃すのは親として問題だろうがな」

「実は放任のくせに」

「生意気な口は30年早いぞ、若僧」

爽やかに笑顔で話す二人に、少し……いや、ドン引きだよね。

「敬ちゃん、仕事遅れるよ」

「あ。行ってきます」

「いってらっしゃい」

言うと、何故かじっとして立ち止まる。

「急がないと、本当に遅れるよ?」

「あ、うん。じゃあ」

スッと、髪から葉っぱを取ってくれてニッコリ微笑んだ。

敬ちゃんのふんわり笑顔は昔から好きだな。

後ろ姿を見送って、それから店に戻るとレジの前の椅子に座る。

朝の商店街は、通りすぎていく人でいっぱい。

今日はポロンは定休日だし、喜美ちゃんもお休み。

ラッピングリボンはたくさんあるし、ぼんやりするには良い日和。

ブリザードフラワーのリベンジでもしようかと思ったら、親父様と目があった。
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