小路に咲いた小さな花
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翌朝、家を出た瞬間に言われた言葉。

「彩菜。どうしちゃったの」

それはどういう意味だろうか。

視線の先を見ながら、眉をしかめる。

たぶん真っ先に見たのは、巻いていないけど下ろしたままの髪。

それから見たのは、セーターにシフォン素材のスカート。

それにロングブーツを合わせてみた。

コートだって今日は喜美ちゃんに借りて、ふわふわと可愛いポンチョ風コートよ。

頭が“どうしちゃったの?”って意味なら、喜んで着替えてくるわよ!

だってデートだもん!

デートって言ったのは敬ちゃんじゃないか!

デートならおしゃれくらいするもん!

それくらい考えるもん。

「あ。えーと、ごめん。怖い顔は似合わない」

「怖い顔させてるのはどっち?」

「うん。だからごめん。デート……意識してくれるとは、ちょっと思ってなかったから、つい」

まぁ、それが敬ちゃんだよね。

「いいよ。慣れてるから」

「あー……ごめんって。こういうとこがダメだってことは、重々承知してるから」

……珍しい。真顔で謝ってきてる。

今までなら、笑って“ごめん”って言われて、しょうがないねって言って、それで終わりだよね。

不思議そうにしてみたら、敬ちゃんはちょっと嬉しそうに笑った。

「自分で意識しろって言っといて、いざとなると……やっぱり嬉しかったもんで」

「…………」

嬉しかった……んだ。

嬉しかった……から、もしかして、今のは照れたわけ?

照れて……からかわれた?

敬ちゃんも、照れるわけ?

な、なんか、嬉しい……けど、

「敬ちゃん。実は解りにくい人だったんだね……」

「え。うん。解りやすいって言われるより嬉しいけど複雑」

本当に複雑そうな顔をされて吹き出した。

うん。

まぁ、新しい敬ちゃんには慣れていないけど、敬ちゃんが丸っきり変わった訳じゃないのは解ったかな。

「よし。敬ちゃん、腕を組もう」

「……腕組もうって、宣言してからするもの?」

「しない?」

「いや。解らない。今まで言われたことがない」

そう?

「中学時代、彼女と腕組んで商店街歩いてたじゃん」

「それは……」

言いかけて、敬ちゃんは驚いたような顔をした。

「彩菜。ちょっと……」

「ダメなの?」

「ダメじゃない……けど。どうしたのって、これは真面目に聞いていい?」

「ん?」

「昨日と全然違うから、さすがに俺も困る」

「昨日は、親父様が敬ちゃんとご飯食べたいって事だったけど、今日はデートでしょう?」

今さら違うとは言わせないから。

「……うん。デート」

「なら、やるならとことんよ。どーせ商店街の皆には、よくわからないけどお祝いしてもらったし。あんなものまでもらったんだし」

明るい家族計画の箱は、親父様が面白がって朝から薬局に返しに行ったけどね。

衣料品店のおばちゃんからのはやっぱり下着的な……

あのサラサラ素材の、色は可愛いピンクのミニネグリジェ風味な下着は、なんて呼ぶんだろう?

ミニ過ぎて、屈んだらおしり丸見えだな……って思ったら、ちゃんと穿くのも箱に入っていた。

確か、ベビーなんちゃら。

おばちゃんは、可愛い感じで選んでくれていた。

家に鍵をかけて、ポンチョを被ると、クスクス敬ちゃんが手を差し出してくる。

「ん?」

「腕組より先に手繋ぎ」

「えー……」

「急ぐことはないでしょ? 今日だってまだ朝だし」

そうだけどね。

手を繋いだら、

「違う違う。こうだよ」

指と指を絡ませて、きゅっと握られた手。

「…………」

困った。

これはこれで、とっても照れる。
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