小路に咲いた小さな花
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髪型はオーケー。喜美ちゃんが気合いを入れて、何だか巻いてくれた。

服装はVネックの黒のセーターに、宅飲みだからと花柄パンツ。

コートは喜美ちゃんに文句を言われながらもいつものピーコート。

だって、別にデートじゃないもの。

デートなら、私でもそれなりに気を使ったかもしれないけれど、これはデートじゃないもん。

敬ちゃんの友達のお祝いに、ただ話し相手として呼ばれただけだもん。

待ち合わせは、友達の家に近い最寄り駅に19時集合。

集合……?

思えば、集合ってどういうことなんだろう。

ここで待ち合わせして、友達の家に集合……って、そういう意味だよね。

そう思いながら、ポケットからスマホを出して時間を確認すると、手の中で花のワルツが鳴り出した。

「あ。わ……っ」

「ああ。やっぱり彩菜だ」

「きゃあああ!」

真後ろからかけられた声に、思わず悲鳴をあげて飛び退いた。

振り返るとびっくりした顔の敬ちゃんと、その後ろにその他大勢。

「び、びっくりさせないでよ。敬ちゃん」

「あ。うん。ごめんね。でも誰だか解らなかったから」

「だからって人の真後ろに立つのは危ない人物だからね!」

「あー。そうか、そうかもね」

びっくりした~。

体勢を立て直すと、敬ちゃんの後ろから顔を出したのは、喜美ちゃんなら間違いなく大絶賛のイケメン顔。

「おー……。なんか見たことあんな」

「あるかも知れませんね。山本の家には大学時代何度か行きましたから」

「ああ。そうかもね。大学時代だから……たぶん、彩菜が中学生になるかならないかくらいかな」

イケメンさんたちが顔を見合せ、それから同時に敬ちゃんの肩を叩いた。

「え……なに? それ」

と、言うか、なにこれ。

何だか山が三つ、目の前に立ちはだかっている気分に……

「そこの三人。大の男がそんな小さな女の子見下ろしているのは良くないわ。ただてさえ無駄に大きいのに怯えてるじゃないの」

綺麗な女の人が三人を、冷たく、それはそれは冷たい視線で見つめている。

……例えるなら薔薇、だな。

しかも淡い色合いの薔薇じゃなくて、黒真珠。

赤くて深みのある黒薔薇。

綺麗だけれどトゲガあって、華やかだけれど深みがある。

「ええと、井ノ原さん? そんな男どもに構わず、こちらに来なさい」

えーと……でも、

「ああ。あの人が水瀬さん。そして隣が伊原さん」

敬ちゃんがニコニコ紹介してくれて、黒薔薇さんの近くに、凛として立つ女の人を見た。

伊原さん……は、

「しまった。カラーだった」

凛として真っ直ぐで、清潔感のある美しく白い花。

「はい?」

とても不思議そうに首をかしげられたから、紙袋の中からプラスチックケースに入れたブリザードフラワーを取り出す。

「かわいいお嫁さんイメージで作っちゃいました。伊原さんは可愛いじゃなくて、凛としたイメージだったんですね~」

「え……あ。私に?」

「どれ。見せて」

横からひょいとケースを奪われて、まじまじと中の花を眺めている。

ピンクの薔薇と、百合をあしらったミニブーケ。

「ああ。確かに可愛い感じか。まぁ……たまには可愛いんだからいいんじゃねぇの?」

と、言うか、このイケメンどっち?

「あ。そっちが磯村」

敬ちゃんの紹介に、磯村さんがにっこりと微笑む。

「婚約祝い?」

「あ。はい」

「どうも。そっか、あんた花屋の長女か」

「え? あ、はい」

と、言うことは、もう一人の眼鏡男子が葛西さんか。

納得したところで目があって、ペコリと頭を下げあった。
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