幽霊とバステト
「到着しました。汐梨様、お会いする前にお約束して頂きたい事がございます。」
「約束?なに?」
「お会いする方には話しかけたりする事は御法度です。くれぐれもそのような事がない様にお願いします。」
「御法度って何?」
バステトは溜息をついた。
「あれ…今バカって思った?」
「はい、バカというか物を知らなさ過ぎます。御法度というのは、禁止という事です。」
「な〜〜んだ!じゃそう言ってくれればいいじゃん!」
「・・・・・。」
「はいはい、勉強しま〜す。」
「では、美月様にお会いしてもらいます。」
どんな風に会うのか少し不安だけど、会いたいから…きっと美月泣いてるだろうな…。
「はい、では、いってらっしゃい!」
そう言ってバステトが私の背中に飛び蹴りをした。
バランス崩して倒れる。
目の前に壁が!!
ぶつかるっっっっ!

スポッと壁を抜けて家の中に入った。

『あっそっか、幽霊だった。』

何度か美月を家は来たことがある。
奥の右側の部屋が美月の部屋。
ノブに手をかける。スルッとすり抜ける。

『そっか、このまま行けばいいんだ。』

ゆっくりドアに手をかざし押すように進んだ。
美月はベッドにうつ伏せに寝ていた。
体が震えてる。
泣いてるんだ。そう思った瞬間、美月が大声で笑いだした。

『えっなんで…。』
「そっか、おばさん知らないんだ。よかったじゃんバレなくて!」
『どーゆー事?』

美月の隣で私も携帯に耳を傾けた。
聞こえてきたのは、舞子の声だった。

「自殺って聞いた時は焦ったけど、遺書とかなくてよかったじゃん!舞子もおどおどしてないでね。じゃないと、どっからバレるかわかんないし…アンタ余計な事言ったら、次はアンタが汐梨みたいになるからね。」

『美月…何言ってんの?』
思わず家から外に飛び出す。

「ニャーーーーーーー!!!」

飛び出した場所のバステトがいて尻尾を思いっきり踏んでしまった。

「何をされるんです。わたくしにとっては大事なチャームポイントなんですよ!」
そう言いながら尻尾を舐めている。
「ごめん…。」
ポロポロと涙が流れる。
「あぁぁ申し訳ありません!わたくしきつく言い過ぎました。尻尾踏まれたぐらいで、怒るなんてすみませんでした。」
バステトは申し訳なさそうに、謝る。
「ううん違うから…。」
「あっそうですか、お知りになられたのですね。」
「えっ何バステト知ってたの?」
「はい、わたくしは何でも知ってます。」
「じゃなんでこんな事教えるの??こんな事知りたくなかったよ〜!」
「人生をやり直すなら、全て知っていただきたいので…」
そうバステトは言いながら私の体にスリスリしながら話すのを止め、ゴロゴロと喉を鳴らしながら号泣する私の膝に乗って座った。
温かさとゴロゴロの音が優しくて、私はもっと泣いてしまった。

少し時間が経ってバステトが話しだした。

「汐梨様、少し落ち着かれましたか?」
うん。と頷く。
「では、続き行かれますか?」
「続き??」
「はい、先程汐梨様が飛び出して来た所で時間を止めさせていただいてます。」
「もういい。美月が舞子たちと一緒ってわかっただけで、じゅうぶんだよ。」
「でも、なぜそうなったのか理由はわかってませんよね?」
「知って何になるの!」
「わたくしの役目は汐梨様に全てを見ていただくことです。」
「わかった。行ってくるよ。」

諦めてまた美月の部屋に入る。
途端に止まってた美月が動きだした。

「でも、ほんと遺書とかなくてよかった!でも死ねって言ったけど、本気で死ぬなんでバカだよね!あっもうすぐママ帰って来るから、また明日ね。バイバイ」

『死ねって美月が言わせたの?じゃ今までの全部…なんで?』

「汐梨…。」

私の名前を呟くと、美月が泣いた。

『なに?どーゆーこと?』
「まさか、本当に死んじゃうなんて思ってなかったよ…。」
『勝手なこと言ってんじゃないいわよ!私がどんだけ苦しかったか…泣きたいのは私の方だし!』

コンコン。ドアがノックされ美月のママが入ってきた。
美月の家はお金持ちで、パパはお医者さま、ママは弁護士さん。何不自由のないお嬢様。
私たちの高校はお嬢様学校で美月のとこは余裕があったけど、私のとこは両親が頑張って行かせてくれた学校だった。
なのに私は親不孝なことをしたんだ。
でも、なんでそんな美月が私をいじめてたんだろう。
自分の方が幸せじゃん!
遊びに行くたびにお手伝いさんがいて、お茶いれてくれたり、お菓子用意してくれたりして、羨ましく思ったのに…。
ランク付けしたら確実に美月の勝ちなのに理解できない。

「ママ…おかえり…今日は早かったんだね。」
「どうかしたの?あなたが泣いてるなんて。」
「…美月のせいで汐梨が死んだの。」
「どうゆうことなの?」
「ママ…美月ね、汐梨をイジメてたの。死ねって言ったら本当に死んじゃったの!ねぇ美月どうしたらいい?」
「汐梨ちゃんってよく来てた子よね?」
「うん…。」
「お通夜は行ったの?」
「美月は怖くて行けなかった。」

『どこまで本心なのか、わかんない。』

「美月はってことは、他の子は行ったのね…じゃ遺書とかあったのかはわからないのね?」
「ううん、他の子がないって。」
「そう、よかったじゃない。」
「えっママ?美月が殺したんだよ!?」
「美月、よく聞きなさい!美月は何もしてないし、言ってない。汐梨ちゃんのことは早く忘れなさい。」
「ママ?本気で言ってるの?」
「ママもパパも今大事なお仕事をかかえてるの。あまり困らせないでちょうだい。それに、あなたも後半年もすれば卒業なんだから。」

『何言ってんの?美月が泣いてるのに、結局自分の事の方が大事って事じゃん!!』
足元をシュルリとバステトだ通った。
「バステト!?来たらバレちゃうじゃん」
「大丈夫です。わたくしはお使えしてるお方…つまり汐梨様だけに見える存在ですので。」
「なんだ…そうゆうことは先に言っててよ。」
「それより、いいんですか?汐梨様を死ぬ決断まで追いやった張本人を庇うような考えで。これも嘘かもしれませんよ。」
「そうだね…でも…」

美月を見ると嘘には見えない。私ってお人好しなのかな…。

「ママ…わかった。汐梨のことは忘れる。まだ仕事あるんでしょ?いってらっしゃい。」

美月のママが出て行った後、美月はずっと泣いていた。
私の名前を呼びながら、何度もごめんって謝ってた。

「嘘ではないようですね。」
「バステトはなんでも知ってるんでしょ!?このことも知ってたんでしょ?」
「もちろん、知ってましたとも。ですが、汐梨様には自分で知っていただきたかったので。」
『そればっかり!』
「ですが、汐梨様自身じゃなきゃ…」
「わかった!もういい!少しだけ、ほっといて!気持ちも読まないで!」
「わかりました。では、何かございましたら、御呼びください。」
そう言ってバステトは長い尻尾をゆらりと動かした瞬間に消えた。

泣いてる美月の隣に座った。禁止は話しかけること。
私は黙って美月を抱きしめた。

「えっ…汐梨??」
『えっ私しゃべってない!』
「な、わけないか…汐梨とハグしたときみたいな気持ちになったんだけどな…汐梨…会いたいよ。」

「その願い叶えさせていただきます。」
「なに?この猫ちゃんどこから入ってきたの?」
『えっなんで?私以外には見えないんじゃなかったの?』
「お初にお目にかかります。わたくしバステトと申します。」
「えっなになに?なんで猫がしゃべってんの?」
「ですから、バステトですってば。人間って生き物はバカなんですか!?」
「あっごめんなさい。びっくりしちゃって…バステトさん、願い叶えるって汐梨に会えるってこと?」
「はい、わたくし訳あって汐梨様にただいまお使えしております。今ここに汐梨様がおられます。美月様が会いたいと本当に心から願うのであれば、お会いになられます。いかがなさいますか?」
「そんなの…決まってるじゃない。会いたいに決まってるじゃない!」
「では、汐梨様もよろしいですか?」
『そんな急に言われても…』
「嫌なんですか?」
『嫌じゃないけど…』
「バステトさん、汐梨は会いたくない?」
「会いたくないというより、迷ってらっしゃいます。」
「汐梨…ごめんなさい!美月、汐梨に会いたい!会って謝りたいの。」
『今更謝られても…』
「今更謝られても迷惑だそうです。」
『あっまた気持ち勝手の見て勝手に伝えたっ!』
「やっぱりそうだよね…バステトさん、汐梨は今どこにいるの?」
「美月様の隣にいらっしゃいます。」
美月が私が座ってると思いながら隣を見た。
「すみません。言葉が足りませんでした。反対側の隣です。」
「あっこっちか!?」
美月は恥ずかしそうに笑った。
「汐梨?会いたくないのは当たり前だよね。こんな奇跡信じられないよ…汐梨が自殺したって聞いた時美月せいだって思った。美月が汐梨を殺したんだって。」
『美月…』
「美月ね、汐梨が羨ましく思って。遊びに行ったらいつも晩御飯食べて帰りなさいって言ってくれる、おばさまが好きだった。娘が増えたみたいだって言ってくれた、おじさまが好きだった。こんな家族だったらよかったのにって何回思ったかわからない。」
『私は美月のママってキレイで弁護士さんでお金持ちでいいなって思ってたよ。』
「それは本当のママをしらないからだよ。」
『確かにあのママは私が娘でも嫌かも。』
「でしょ!最悪なんだから…。」

「えっ」『えっ』
ってハモってるじゃん!
「会えなくても会話はしたいだろうなぁと思いましたので、声は聞こえるようにさせていただきました。」
『バステト…もう、いいよ。美月に会わせて。』
「美月様、汐梨様が会いたいって言いましたので、会っていただきますね。あらよっと!」
そう言うとバステトは後ろにクルリと一回転した。
頭から少しずつ私の姿が美月に見えて行く。
「汐梨…本物の汐梨??」
涙がスッと流れていく。
「うん…今はわけあって幽霊してます。」
「汐梨!!!ごめんなさい!本当にごめんなさい!勝手に嫉妬してイジメるなんて…しかも死なせるなんて…私どう償えばいい?」
「もういいよ。償いなんて、なんの意味もないし。だって私幽霊だし!」
ニカっと笑ってみせる。美月は泣いたまま。
「今の笑うとこだよ!…美月は償いなんて考えないで。美月のママの言う通り私のことは忘れていいよ。」
「そんなことっ!そんなこと出来ないっ!!」
「じゃ思い出にして。入試で初めて会って合格してずっと同じクラスで、プリクラ撮ったりカラオケしたり、夏は海行ったよね。花火も行ったし。そうゆう楽しかった事…思い出にして。」
「汐梨…」
「そんな顔しないで。私は平気だから。あと、もうイジメなんてしないで…」
「わかった約束する。…また会える?」
「幽霊の私と?」
「うん、幽霊でも会いたい!バステトさん、いいでしょ?」
「いけません!今回のこの事は特別の時間でございます。」
「そっか、そうだよね…いつまでここに入れるの?」

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