スレインの使い手~ムスビの過去~
1章
1.砂の国

この国は酷く荒れた状態のまま一体どれほどの年月を過ごしてきたのだろうか。
国の展望台から見る外、荒野にあるのは混じり気のない砂と元は肉があったであろう人間や動物の骨ばかりだ。
辺りを見回しても同じ風景が見えるばかりの中、男とも女とも取れる若い顔立ちをした人間が一人立っていた。
白いカッターシャツに黒いズボン、そして、黒いコートを羽織っており、ベレー帽に似た帽子と荒れ狂う砂が目に入らないように配慮されたゴーグルを付けていた。
中世的な顔立ちをしているが恐らく女だろうとわかった。
女というにはいささかまだ早い年頃だとは思われるが。
不意にズボンのポケットに入っていた端末が着信を報せる。
慣れた手つきで操作をし応答ボタンをおしたと同時に聞こえる声。
「よぉ、ムスビ」
「...お久しぶりです、バカ師匠」
相手はムスビと呼ばれた少女の師だった。
今現在この砂漠のど真ん中にある国にいる理由を無理やり作った張本人でもある。
今回この国にやってきたのは偶然とはいい難い必然から来た物であった。
昔、ムスビの師匠がお世話になったと言う女性からの依頼がすべての始まりだった。
その女性曰く、怪物退治をして欲しいとのこと、怪物は夜な夜な現れては町の人間を攫い、喰らうらしい。
そんな怪物には、ムスビはあったことがないし、見たこともないが、師匠からの命令で怪物退治をすることになった。
「おいおい、師匠に向かってその口の聞き方はないよなぁ〜?」
「...でも、師匠がお世話になったんじゃないか、またどうせ酒絡みだろう、ちぇっ、いつも僕が尻拭いさせられるんだ」
師匠に対する愚痴を本人にこぼしながら、ムスビは砂漠の中を歩いていく。
「ところで、師匠」
「なんだ?」
「師匠は今どこで何を?」
弟子を怪物が出る国にほっぽいていった男だ、聞く権利はあるだろうと思い聞いたが、それもやはり想像していたもののようだった。
「美人な女達に囲まれて酒飲んでる」
「聞いた僕が馬鹿でした」
そうこうしているうちに、目当てのポイントにようやくついた。
そこは、ほかの場所とは比べ物にならないほどの異臭と骨があった。
犠牲になったモノたちの物だろう。
死者たちに哀悼の意を表するべく、砂の上に膝をつき祈りを捧げる。
この星ではそれが死者への礼儀になっている。
「 ...You approaches near God and believes that there is not a pain again and prays.(貴方方が神の近くへ歩み寄り、痛みがないことを信じ、祈ります)」
簡易的だが弔いの議を済ませ辺りを再び見渡す。
ここは砂漠だから当然隠れて過ごす場所も何もない。
だからこそ、スレインと呼ばれるモノが必要になる。
スレインとはこの世の理を意味し、この世の始まりでもあり終わりでもあるモノ。
それは存在しているものすべてに働きかけ、スレインを扱う人の能力によって様々なモノに姿を変える。
それがたとえ砂であっても、能力が高ければ木にもなるし、綿にもなる。
そういう、次元を超えたものだ。
スレインについては誰もその存在の意味を知らず、また、解明されていないモノだ。
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