東京血風録

 日曜日である。

 目の覚めた遥は、周りを見渡して状況を判断しようとした。
 ソファーに霧華が寝ているのを確認すると、部屋の奥にある浴室へシャワーを浴びに行った。
 この事務所、事務所として使っておるが元々2LDKの部屋を改装して使っておるので、浴室も洗面台も完備していた。
 
 遥の日課で、朝起きたらまずシャワーを浴びる。
 そうして、代謝を促すのが相性がいいらしい。
 たっぷり15分はシャワーを当てる。
 そうしてると、浴室の扉をコンコンとノックされた。
 部屋には霧華しかいない。
 別段驚く様子もなくシャワーを当て続けていると、
「遥。ごめんね」と、霧華。
「ちょっと無理強いしちゃったけど、いいチャンスだと思うの。遥にとっても私にとっても。でも、負けられないというのも本当なの。お願いだから、成功してこれでもう大丈夫だって安心させて」
 うん、いつもの霧華だ。
 落ち着いていて、聡明で弟想い。
 霧華はこうでなくては。


 なんで、こんなこと細かにわかるのかって?そりゃ、遥がいつ何時何があっても対処できるように、儂を浴室の中へ運びこんどるからだ。
 濡れないよう、ビニールに包まれておるが部屋の端っこにたてかけられておるので、話は筒抜けだ。

 遥はシャワーを浴びながら、返答の言葉を発した。
「姉さんありがとう。僕はもう大丈夫だから!姉さんを心配させるような想いはさせないから!ありがとう!」
 最後のほうは、声が震えていた。
 叫んでもいた。
 想いが溢れ出していた。

 霧華の反応は………。

 なかった。



 恐る恐る遥はドアを開けてみた。



 そこにはもう、霧華の姿はなかった。
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