東京血風録



 屋上。



 風が哭いていた。

 男、2人。
 王道遥と日暮幸多。

 跪く日暮に木刀の切っ先を向けて立ち尽くす遥。
 勝負あった。
 戦意を喪失しているようだ。



 日暮は、壁が倒壊する寸前、壁をよじ登り渡り廊下の屋根を蹴って、更に上へと跳躍していた。
 壁に激突するような事態に陥ったのは、藤堂飛鳥の右ストレートが功を奏したと思われる。
 目測したことよりも、体がそれに対応しきれなかったのであろう。
 
 遥はそれを追った。
 遥は空中を移動する技があった。
 一瞬で、ビルなどの壁があることが必須条件なのだが……。
 “血風吹き荒れん”の要領で空中に気流の渦を作り固定、それに飛び乗り、気流の反発する力を利用して上へ、そしてまた気流を作り……。それを繰り返して、屋上へ到達した。ほぼ同時に。
 
 遥の行動は疾かった。
 立て続けの連撃は、上下に打ち分けられた。肩、胴、小手、腿と脛。
 逃げるひまを与えなかった。
 そのまま跪き、先ほどの体勢になった、


 項垂れたまま、動かない日暮幸多に対し、遥は木刀に念を込めた。木刀の切っ先に、小さめの気流が渦巻く。血風吹き荒れん。
 日暮の眉間にそれを突き刺すと、不思議なことが起こった。
 黒い木刀・伊號丸は眉間を貫くと後頭部から切っ先を出した。
 血も出ず、衝撃もなく、それは静かなものだった。
 そして、伊號丸の切っ先には奇妙なモノがくっ付いていた。
 小さな薄いピンクの塊。20センチ程の。
 それは、赤ん坊の形をしていて、頭のてっぺん左右にこれまた小さな角のようなものがあった。

(鬼児じゃ)
 伊號丸が意識下で伝えた。
 鬼児(おにご)。
 初めて聞く初めて見るモノだった。
 鬼児は、そのぷっくりした腹に伊號丸の切っ先を刺され、ぐったりしていすた。
 腹は気流の影響で捻れており、苦痛なのだろう、時折腕をピクリと動かしたり、口をあんぐり開けたりした。
 口の中に小さな牙が見え隠れした。
(鬼児に取り憑かれておった。こやつに操られておったのじゃ、この男は)

 伊號丸がそう呟き、遥がその奇妙な憑き物に目を奪われていると、伊號丸のただならぬ感情の揺れが感じられた。
 濁流のように、伊號丸の感情が一気に溢れ出す!
(儂とて鬼の端くれ!鬼の気配はわかる!この感じ!この感じは~~~~~~!!!!)
 そう、心に響き渡る叫びと、遥自身殺気を感じて振り返るのと、ほぼ同時だった。
(鬼の王・・・・・・)
 伊號丸の呟きと、遥が背後に立つ男の姿を目視するのとも、ほぼ同時だった。
 

 そこには見知った男の姿があった。
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