月に一度のシンデレラ


渋谷駅に着いた私は、JRの線路沿いに10分ほど歩く。
大通りに面した灰色のマンションのエントランスを抜け、エレベーターの「5」のボタンを押した。

手には大き目のボストンバッグを提げている。
このバッグが活躍するのは月に一度。この特別な夜だけだ。

目当ての部屋である505号室に着くと、私は玄関ブザーを二度押した。



「あぁい」

気だるい声と共に顔を出したのは私の「悪友」。ニューハーフのノリ子だ。本名は健司という。仲間内では「ノリ」とか「ノン」という名前で呼ばれてる。

「遅かったじゃなぁい、マリカ」

「ごめんノリ。すぐ着替えるから」

私はまるで勝手知ったる我が家のように、ズカズカと「彼女」の部屋に上がり込む。

「来ないから寝てたのよぉ。ヒロくんがお熱でも出したのと思ってさァ」

「大丈夫。元気よ。ちょっと夕飯の支度が遅れちゃってね」

ノリは私のことをチラリと見て言った。

「ふぅん。ちゃんと『母親』してんだぁ」



月に一度、こうしてノリの家に寄り、着替えて渋谷の街に出る。
こうして時々は「マリカ」を解放させてあげないと、私の中で万里子とマリカが喧嘩を始めるから。それは双方にとって不都合な事態だった。

こんな私の行動を知っているのは今のところノリだけだ。
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