溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「ナホ」
その名前を呼ばれる心地よさで、改めて自分がとんでもない契約を結んでしまったのだと気づく。
みすぼらしく、抱かれる寸前で男に捨てられるような女でも、ジェイドさんはきっと七日間、恋人の様に優しく甘く接してくれる。
私は、その優しさに本当に恋人の様に錯覚して脳まで麻痺してしまうかもしれない。

「お。ブザー。ラッシーが届いたようだ」

恋なんてしらない私に、――そんなに優しくしなくていい。
利用するだけでいいの。そうしなきゃ、七日目がきっと私は辛くなる。
嘘も本当も溶けあって、私はどれが真実が分からなくなる。

「ほら、ナホ。これを飲んで酔いを冷ましなさい」

さっぱりしたラッシーの匂いの中にほろ苦くて甘いマンゴーの味がした。
マンゴーは甘いのに、このほろ苦さはアルコール?

「美味しい。ありがとうございます、美味しいです」
「そうか。それは良かった」
嬉しそうに笑うジェイドさんの笑顔を見ながら、ふわふわ足元が軽くなっていく。
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